not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

2023-01-01から1年間の記事一覧

わたしの献立日記(沢村貞子)

散歩の途中に買った本をテーブルに置く。 「いいなあ、毎日楽しいでしょ」 娘に訊かれると、仕事してない自分が何だか後ろめたくて 「いや、そうでもないよ」 なんて応えてしまう。 楽しいかどうかはわからないけど、確かに気楽になった。時計ばかり見なくな…

なぎさホテル(伊集院静)

人生には、回り道や寄り道が必要だ。 そんな言葉をよく耳にするけれど、私は過去のことをあまり憶えてないので、どれが回り道でどれが寄り道だったのか。それでも記憶を辿っていたら、ああ、もしかすると、今がそれかもしれないと気づいた。 『なぎさホテル…

フリーズドライ(ササキアイ)

アイさんの文章に出会ったのは二年前の春、Twitter(X)の「おすすめ」に流れてきた。 100文字ほどの呟きが自分の琴線に触れて、うわあ…と固まってしまった。 SNSの文章が好みで気になった人は大抵エッセイを書いていらして、リンクから読みに行くと、益々好き…

女という生きもの(益田ミリ)

タイトルに惹かれて買ってみた。 みうらじゅんとクドカンを読んだ後だし、スルスルと読めそうなものを選んだつもりだった。 でも、実際読んでみると、とても真摯な本だった。 文庫のあとがきに 「たんたんと書くことでしか放出できぬ憤りがあったのだろう。…

ブルーハワイ(燃え殻)

あー、とうとう全部読んでしまった。 読み始めた本がとてもおもしろいとき、小説なら先を知りたくてどんどん進むけれど、エッセイの場合、私は出来るだけ最後まで辿り着かないよう少しずつ読む。美味しくて個包装で賞味期限の無いお菓子を、一つずつ一つずつ…

会いたくなったら歌うよ、昔の歌を

仕事を止めて三ヶ月経った。 空を見て本を読んで散歩をして料理をする。 友だちが訪ねて来てお喋りをして見送って夕焼け。 三十年以上、そんな暮らしに憧れていた。 仕事をしていない友人が羨ましくて堪らなかった。 それでも同じ仕事を続けてきたのは何故だ…

あはれ秋風よ

母は二年間の闘病後、天国に旅立った。 父はそれから八年生きて、母のところに行った。はず。 母がいなくなって、父はだんだんと気持ちが病んで認知症になった。 私は自分の家から車で一時間、父の家まで週五日通った。お風呂を嫌がる父、病院を嫌がる父、何…

甘いカクテル色の空を仰げ

二十八のあいみょんの顔を見てお肌もふっくらスベスベで髪もツヤがあって瑞々しくてああ、一番キレイなときだなぁと自分の二十八の頃を思い出してみたけどいや、そうじゃないな今振り返ってみると自分が一番キレイだったのは五十だったような気がするそれな…

塾にも向き不向きがある

新しい町を、毎日少しずつ歩いている。 本屋、雑貨屋、パン屋…。気になる店を見つけるとすぐ入るのでウォーキングというより散歩。 先日は夕刻に思い付き、クリーニング屋まで歩いた。18時半くらいだった。 自転車や徒歩の小中学生とたくさんすれ違う。 皆ん…

本屋で待つ(佐藤友則 島田潤一郎)

山間の本屋「ウィー東城店」 経営する佐藤さん、彼の家族、そこで働く人たち、店を訪れる人たち、そして町の人たち。 時間の流れと共に様々な出来事があり、皆んなもお店も成長しながら「ゆっくり、元気になる」。 自分の仕事について語るのは、案外むつかし…

住み替えを終えて

住み替えは、トントン拍子に進んだ。 新しい物件を探すのも、四つほど見学して消去法とインスピレーションで一つに絞った。 それまで三十五年間暮らした家は、山と湖に挟まれた夕陽の美しい地にある。車が無いと何処にも行けないけれど、若い頃は何の不便も…

猫の背中は綿あめの匂い(ササキアイ)

母の臍から下には、編み上げブーツのように縦に縫われた大きな傷があった。 子供の頃、近所に昔ながらの銭湯があり、時々母と二人で出かけた。 その大きな傷は「ていおうせっかい」のもの。 私の母にも私にも、臍の下に同じ傷がある。 そして、同じように、…

あなたと逢ったその日から

桑田佳祐の『やさしい夜遊び』の選曲が好き過ぎる。 日本の曲も外国の曲も、ちょうど世代が重なるのでアタマやカラダに馴染んでいるのかもしれない。世代が重なると言っても私が子どもだった頃。 母の小料理屋の有線から耳に入ってきた曲たち。一人で留守番…

昔日の客(関口良雄)

読み終えた本は、手元に置いておくか手離すか決める。手離すものは近所の本屋に持って行く。古本と新書を扱うその店には、いつも穏やかな空気が漂っている。 友人から、本を買取ってくれるところはないかと訊ねられたので、その店を教えた。 数日後、彼女か…

スローシャッター(田所敦嗣)

仕事って何だろう。 そんなことを考えるようになった。きっかけはコロナ禍と年齢かもしれない。 若い頃は働くのが日常で前へ前へ進んでいたけれど、ふと立ち止まることが増えたなと感じる。 『スローシャッター』は、水産会社に勤務して25ヶ国を訪れた著者が…

暦レシピ(高山なおみ)

娘が二十歳で結婚したので料理など教えていなかった。本人も不安だったのか、私の大したことない何品かの作り方をノートに書いて持って行った。 たまに娘の家に行くと、手元にはノートではなくスマホを置いて手速く料理している。今は何のレシピだって出てく…

ウサギとカメ(斉藤和義)

豪雪が災害の記録をぬりかえる。寒波も、実は温暖化の仕業らしい。 奄美大島で115年振りに雪が降ったニュースを見たのは7年前だった。あれから何か変わったのかな。 コロナ前のライブで、斉藤和義が客席に「リクエストありませんかー」と訊いてくれた。 「う…

ジョゼと虎と魚たち(実写版)

(ネタバレあります) 田辺聖子の原作を確かに読んだのに、内容を忘れていた。初版が1985年だから、もう38年も前なんだ。 そして映画化されたのは2003年。ちょうど20年前。 なぜそんなに西暦が気になるかと言えば、当時の時代風景を知りたかったから。 障害者…