あー、とうとう全部読んでしまった。
読み始めた本がとてもおもしろいとき、小説なら先を知りたくてどんどん進むけれど、エッセイの場合、私は出来るだけ最後まで辿り着かないよう少しずつ読む。美味しくて個包装で賞味期限の無いお菓子を、一つずつ一つずつ勿体ながって食べるように。
燃え殻さんの『ブルーハワイ』も然り。
本を手に取るたび挟んだ栞の位置を確かめて、残りこれだけになっちゃったと、ちょっと寂しかったりする。
『ブルーハワイ』は、週刊新潮の連載から精選されたものに書下ろしを加えた燃え殻さんのエッセイと、味わいある大橋裕之さんのイラストやマンガ。
『それでも日々はつづくから』の続編と言えば良いのかな。
今、私は一人で営んできた仕事を終わりにして三ヶ月過ぎたところ。少しのんびりしたくて主婦という立場にいる。
そんな日々は、確かにストレスが軽減される。何十年も頭から離れなかった段取りや憂ごとが消えていく。その代わり、泣いたり笑ったり悔しかったりする頻度が減る。
感情が緩くなると、脳が動かなくなる。
脳が動かなくなると、お気楽になる。
お気楽になると、考えなくなる。
考えなくなると、感受性が鈍る。
もちろん、その逆の人もいるだろう。お気楽になって今まで気付かなかったものに心動いたり、人の言動に感情を揺さぶられたり。
ただ、私は自分の感性が鈍くなっているのがわかる。
燃え殻さんのエッセイは、のほほんとしているのに何故か核心を突く。「来年になったら忘れそうな」記憶や出来事や言葉が、私の固まった脳に柔らかくチクリと鍼を打つ。
ドドドーと押してくるのではなく、ガシッと掴むのではなく、コショコショと擽るのでもなく。
一つひとつのエッセイに、フフっと笑ったり、あーなるほどと納得したり、ちょっと背中を押されたりする。
どのエッセイも好きだけど、なんだかいつもとは違うチカラを感じたのは「僕たちには僕たちのルールがあった」。
「同じ時代に生きて、この地球を出て行くことのできない僕たちは大人になるにつれ、そこいらじゅうに線を引き始める。」
「この地球を出て行くことのできない僕たち」って良いな。まさにそれが、私たちの共通の定め。
線を引く人はそれを忘れてる。
表紙も良い。
やっぱり好きだな。
読み終えてもまた開きたくなるような。
何処かに行くとき、それが嬉しいより心細いとき、連れて行きたくなるような。