夢と現実が混ざり合う感覚。
雨の音、赤ん坊の声、タクシーの運転手、ピアノ曲、みどりいろの電気…。
それが幻想なのか実際に起きているのかわからなくなるような。光と影の合間をユラユラと揺れているような。そして、それを楽しんでいるような。
この本に書かれているエッセイは、今まで読んだことのある高山なおみさんのものとは少し違っているような気がした。
後ろのページを見ると、1996年から2001年に月刊誌に連載されたものらしい。当時の著者の年齢は40歳前後。年齢によって頭の中が決まるわけではないけれど、あーなるほどなんて、自分勝手に納得してしまう。
さいきん、自分の感性が鈍っている気がする。以前はふとした言葉や出来事で、心が熱くなったり切なくなったり苦しかったり迷ったりしていたのに、今は
ふんふん、なるほどねー
あー、あるあるそんなこと
なんて俯瞰してしまう。
怖い夢を見ても、やーめた、と途中で目を覚ます技まで身につけてしまった。
若い時ほど感情を揺らすと疲れちゃうけど、なんだか情緒が無い。硬くなった自分の心の中に柔らかいものがどれだけ残っているのだろう。
見えないもの、聞こえない音、触れられない温度…。生きるために役に立たないそんな感覚が、本当は自分を守ってくれてきたはず。
「誰が何と言っても、自分にはかけがえのないものなのだからそれでいい。自分だけにしかわからない特別なことを、ひとつひとつ味わってゆけば、それで充分なのだと…」
著者は少し先輩だけど同世代。今もご自身の感性を大切に生きていらっしゃる。
私ももう一度、自分の心の中を覗いてみようかしら。