桜を待ちわびていたのはつい先日なのに、もう花は散ってしまった。
コロナはいつまでも蔓延り、戦争は止まず、人のエゴは途切れることがない。
綺麗に幕引きできる花や鳥を見習えば良いのにね。
ふとしたきっかけで、時代小説を読んだ。
伊集院静『いとまの雪』
歴史は好きじゃないし、忠臣蔵にも興味がない。
そうなんだけど、時代小説はたまに読みたくなる。史実と作家の創作との混ぜ具合が楽しい。
伊集院静は、エッセイしか読んだことがなかったので、今回初めての小説。上下二巻を読み終えるのに何ヶ月かかるかしらと思いながら、書店で手に取った。
忠臣蔵の大まかなあらすじは、私たちの年代なら殆どの人が知っている。
今は流行らない「忠義」を主題にしたこの物語を、著者は2019年に書いている。
なぜ今なのだろう。
読み初めは人名が覚えられなくて苦労した。自分の記憶力の無さに呆れて登場人物の名前をメモしながら読み進んだ。
でも、上巻後半あたりから、そんな名前など気にならなくなるほどのスピード感とわかりやすさで下巻の終わりまで一気に読んでしまった。
「この国はいったいどこへ向かっているのだろう」
トップが国を私物と誤り自分のプライドや判断だけで民を蔑ろにしてしまうのは、古来から変わらないのかな。
それに立ち向かう赤穂浪士たちの生き様が今は目新しい。
優しさと厳しさ、臆病と勇気、孤独と愛情。それらはすべて表裏一体なんだと改めて知らされた。
かんという女性に惹かれる。
もちろん理玖にも。
大石良雄の女性への関わり方も。
「生きるは束の間、死ぬはしばしのいとま。」
まだまだそんな境地にはなれないけれど、そうだよね、そう思えば生きていることは奇跡だと改めてわかる。
出会えたこと、感じたこと、ぬくもり、涙、すべてが奇跡なんだなぁと。
映画を観ても、小説を読んでも、私は入り込みすぎてしまう。この小説も早く先が知りたくて読み耽り、家事も用事も疎かになってしまった。読み終わっても二、三日は余韻が消えず、使い物にならない頭のまま公園の僅かに残った桜がハラハラ舞うのをじっと見つめたりした。
生きていれば必ずいつかは死ぬ。
それなのに何を両手に抱えきれないほど集めたがるのか。
いい加減には悟りなさいと、著者は提言したかったのかもしれない。