娘が二十歳で結婚したので料理など教えていなかった。本人も不安だったのか、私の大したことない何品かの作り方をノートに書いて持って行った。
たまに娘の家に行くと、手元にはノートではなくスマホを置いて手速く料理している。今は何のレシピだって出てくるし、簡単に美味しく作れる。
器に盛りつけた写真も、作る手順がわかる動画も見ることが出来る良い時代になった。
高山なおみさんの新刊『暦レシピ』は、そんなスマホアプリに相反するような文章だけの料理本。
著者が料理のことを書き始めて以来十八年間分のレシピを一冊にまとめたもので、写真も箇条書きも無い。141のメニューがそれぞれ日記のように書かれている。
写真が無ければ自分で想像しながら好みの仕上がりを楽しめる。ページ上の余白と静かな文章。そんな佇まいが心地良くて、ちょっと肩の荷を下ろして料理をしようかと思わせてもらえる。
今日は晴れ。
おひさまは春の色だけど風は強くて冷たい。
夜はあたたかいものにしようと、本の最後にある月毎のメニューから「2月」を探す。
高山なおみさんの気取りのないごはんは、作りやすくて美味しい。
この本は、私が生きてきたレシピでできています。
著者にも読者にも、それぞれ辿ってきた人生がある。日々の食事が、そんな一日を共に喜び癒し包み込んでくれるものだといいね。
献立は決まった。
さあ、コートを羽織って食材を買いに行ってこよう。