not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

昔日の客(関口良雄)

読み終えた本は、手元に置いておくか手離すか決める。手離すものは近所の本屋に持って行く。古本と新書を扱うその店には、いつも穏やかな空気が漂っている。

 

友人から、本を買取ってくれるところはないかと訊ねられたので、その店を教えた。

数日後、彼女から電話があり

「買取り価格が安いからもう少し考えますと言って帰って来た」

とのこと。

私は今まで買取価格を気にしたことがなかったので、その言葉に少し驚いた。自分の頭の中で、本とお金がまったく重ならないのだ。

 

『昔日の客』は、東京・大森にあった古書店山王書房」の店主である故関口良雄さんが書いた随筆集。発行部数わずか1000部で入手困難になり、夏葉社によって32年ぶりに復刊された。

著者と作家やお客さん達との交流から、古書店の日々が見えてくるような興味深いお話ばかり。読んでいると、なぜか懐かしさを感じてあたたかい気持ちになる。

あー、名著と言われる所以だと納得させられる。

 

「古本屋というのは、確かに古本というものの売買を生業としているんですが、私は常々こう思っているんです。古本屋という職業は、一冊の本に込められた作家、詩人の魂を扱う仕事なんだって。」

 

私が「本とお金が重ならない」と思うのは、たぶんこれだ。もちろん、商売はお金が付き物で、関わる人達の生活の糧となる。対価が無ければ困るし遣る瀬ない。大型書店に平置きされる「売れる本」も無ければならない。

 

でも、良い本には魂がある。

安い、高い、じゃないような気がする。

難しい本も読めないし大した読書家でもないけれど、魂を扱う本屋が私は好きだ。そんな店に居ると気持ちが和む。

 

『昔日の客』がこんなに懐かしいのは、もしかすると父の書棚にあったのかもと思ったりする。実家に遺された大量の古書もすべて近所の本屋に持って行った。快く引き取ってくださり、それぞれの本に纏わる話も聞かせてもらえた。此処でまた、父の本が誰かの手に触れるとしたらとても嬉しい。

関口さんの古書店は無くなったけれど、同じような本屋が日本から消えないことを、ただ願うばかり。

 

 

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