時々開く本が、数冊ある。
なんだかうまくいかないときやモヤモヤが続くとき、自分の判断や言動がいつまでも気になってしまうとき、本の中に忘れてきたものを探しに行く。
向田邦子さんの『夜中の薔薇』も、その一つ。
1981年に刊行された最後の随筆集だ。
先ず、パッと開いてそのページを読む。
どこでも良い。「夜中の薔薇」でも「口紅」でも「残ったお醤油」、「アマゾン」…
どこにでも忘れものは見つかる。
そして、最後に必ず「手袋をさがす」「時計なんか恐くない」「女を斬るな狐を斬れ」の三つを読んで本を棚に戻す。
己の弱さも強さもわかっているけど、誰もそうそう簡単に自分を変えることは出来ない。
ずっと手袋をさがし続けること。
人生、一生という目に見えない大時計で時を計ること。
男の優しさと女の優しさに立ち戻ること。
夏には夏の設をして、冬には冬の覚悟をすること。
これほど才ある人でも、自分の言葉に何度もしくじり反省をしてその怖ろしさを知り、自分を認められたい気持ちを素直に認める可愛らしさも見せる。
忘れものだけじゃなく、読むたびに新しいことを教わる。
早く逝ってしまったから、直木賞を受賞したから向田邦子という人の価値が上がったのではない。
と、私は思っているのだけど、皆さんはどうでしょう。