娘が観ている音楽番組を何気なく見ていたら、突然、布施明が出てきた。
松崎しげると一緒に『君は薔薇より美しい』を歌っていて、二人の歌唱力に圧倒されながら、早く早くと慌てて出窓に置いてある母の写真を取りに行く。
母は昔から布施明が大好きで、テレビに出るたび両手を合わせてウットリ聴いていた。
「あーオトコマエだわ。歌も上手いし。お母さんはどうしてお父さんと結婚してしまったんだろう」
なんて独りごちていた。
そんなわけで、子どもだった私も知らず知らず布施明を聴いていた。
中でも『そっとおやすみ』は大好きで、一人ぼっちの部屋で背中のボタンに手を回す美しい女性を想像したりする。
最近、以前より自分が元気になっているような気がする。
自覚なく人と朗らかに接していたりする。長くおつきあいしている美容師さんからも
「元気になったねぇ」
なんて言われる。
女がこの年齢になって元気になるという話はよく聞く。
からだも心も足枷が取れてきて大らかに、悪く言えば図太くなるのかもしれない。
元気は嬉しいことだけど、ちょっとだけ寂しいことでもある。
元気になるというのは、孤独の準備。そして、色気との乖離。
背中のボタンを留めてくれる人も要らなくなるのは、なんとなく嫌だな。
母の写真をテレビの布施明に向けて一緒に聴きながら、ほら見えてる?聞こえてる?と訊ねたら胸が熱くなった。
なにかが足りない。なにかがちがう。
それでも、今日も元気。