not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

わたしの三面鏡 (沢村貞子)

世の中がザワザワと落ち着かない。

それはそうだ、生命に関わるたいへんな状況がジワジワと、そして急激に私たちに降りかかっているのだから。

じっと息を潜めているけれど、それでも私達は何にも関わらず生きることは出来ない。

家族、友達、ご近所、仕事、お世話になっている方達、皆んなと連絡を取り合う。

 

情報もたくさん、雪崩のように、渦潮のように、降りかかる。

いろいろな噂、それぞれの説、次々と変化する策、悲しいニュース、心安らぐ画像…

惑わされないように、落ち着いていたいね。

 

そんな中で、やはり、音楽と本は優しい。

空と、植物と、鳥の鳴き声、花の色にも気持ちが落ち着く。

 

ここ二日ほど、沢村貞子さんの『わたしの三面鏡』を再読していた。

七十を過ぎ、女優として、女として、人としての素直な心持ちを書いてある。

シワが増えて、体の動きが鈍って、アタマも緩くなって。

それに対抗したり受け入れたりしながら、人は最期を迎える。

 

「老女の甘ったれには、なりたくない」

 

老いは寂しいのだって、そう、父もいつも、どこにいても寂しいと漏らしていた。

私もいつか、そんな実感を持つ時が来るのだろう。

その時、甘ったれにならないよう気をつけたい。

 

生きていればいろんな経験をするね。

皆さまも、どうぞ無事でありますよう。

 

 

f:id:marico1209:20200410082658j:image

 

 

 

 

 

 

Hidden Figures(邦題『ドリーム』)

 

年が明けたとき、自分の今年の抱負を

「背中を伸ばして前を向く」

に決めた。

ことを、この映画を観て思い出した。

 

『Hidden Figures』は、邦題『ドリーム』として2017年に公開されている。

舞台は1962年のアメリカ。

初の有人宇宙飛行を成功させるため、NASAでその計算能力を活かし、素晴らしい貢献をした黒人女性達の実話を基にしたストーリー。

 

人種差別は、今も根深く残っている問題だけど、当時は酷いものだったと改めてわかる。

そんな劣悪な環境の中でも、彼女たちは自分の在り方をしっかり心得ながら、一つひとつ自己実現していく。

立ちはだかる障壁に闇雲に反発するのではなく、自分に誇りを持ち胸を張って突破する。

時には怒り、時には悩み、時には笑って愛し合って慈しむ。

かっこいいんだよね。

 

私には彼女たちのような秀逸な才能も無いし、誇れる要素も無い。

だけど、彼女たちのスッと伸びた背中に見惚れながら、コンプレックスや弱さを放し飼いにしていたことを反省した。

柔らかく柔らかく、背中に一本筋を通して前を向いていられたら。

本年度が始まるときに、この映画を観たのも何かの由縁。

さぁ、胸張っていこう。

 

 

f:id:marico1209:20200309152529j:image

 

 

 

 

 

 

日日是好日

原作を読んだので、映画も観た。

気に入った作品を、本と映画の両方で楽しめるのは嬉しい。

それにしても、文字を映像にするのは楽しくもあり難しくもあるのだろうと感じる。

この映画にオファーされた樹木希林さんは、

「とてもたいへんな作品を選んだわね」

というようなお返事をしたと聞く。

 

一人の女性がお茶を習い、そのお稽古から様々なことを学ぶ。

その様々なことは、茶道の所作だけではない。

掛け軸、茶器、着物、水、雨、音、光、空気…

それらを映像にするのは、なかなかたいへんだろうと思う。

 

それでも、本からも映画からも、感じ学べるものは同じ。

雨の日は雨を聞く。

私は此処に尽きるような気がする。

 

人生は、誰も思うようにはならない。

泣きたいときは泣いて、苦しいときは休んで、休めないときは苦しんで、空を見上げて、風を感じて、花を見つめて、人を想って。

雨の日には雨を聞く。

 

個人的には、先生が縁側でコーヒーを淹れる場面が好き。

先生にだって、心の中に仕舞っていることがあるのだものね。

 

 

f:id:marico1209:20200226082342j:image

 

 

 

 

レコードと暮らし(田口史人)

二年前の春、父が逝去して実家を片付けた。

父の持ち物の大半は、本とオーディオとレコードだった。

それぞれをそれぞれの買取り店に持ち込んだ。

 

レコードは全部で200枚くらいあったと思う。その時、初めて中古盤専門店へ足を踏み入れた。

店の中は、迷路のような細い通路があり、棚にはレコードとCDが床から天井までぎっしり。

見れば見るほど興味深く、買取り査定してもらう間ずーっと棚から目が離せなかった。

 

田口史人さんの『レコードと暮らし』という本には、戦後から数十年間の、音楽だけじゃないレコードがたくさん紹介されている。

当時は、レコードが書籍の役割を持っていたり、記念品だったり、配布品だったり、商品の広告だったり、教材だったりしていた。

漫画家や文学者のレコードも多く、三島由紀夫のものや川端康成のもの…聞いてみたくなるものがいろいろ見つかる。

 

それから、ソノシート

ソノシート?と疑問に思って調べてみると、あった、あった。

ペラペラの透けている小さなレコード。そして、フォノカード。

なんだか懐かしくなって、子どもの頃を思い出す。

 

そんなレコード達から、著者はいろんな場面を想像する。

それを制作した人達の気持ちや、それを買ったり聴いたりした人達の暮らしを慮る。

 

今は、何でもネットで調べれば正解らしきものが見つかる。

でも、果たして、そのすべてに正解が必要なのだろうか。

物に対する親しみや、物にありったけの気持ちを込めるという姿勢。

正解を探すより、自分で親しみ感じること。

それが楽しいのだろう。

中古盤専門店で、レコードに囲まれたとき感じたあのあたたかさや高揚感は、こういうことだったかもしれない。

 

 

f:id:marico1209:20200124170929j:image

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よるのむこう(nakaban)

子どもの頃は、とても寝付きが悪かった。

二段ベッドの上が私で下が祖母。小さなアパートの二階。階下は母の小料理屋。

夜中までずっと、賑やかな笑い声と歌声。

祖母が電気を消して、一時間…二時間…真っ暗な天井を見つめていた。

夜の闇が怖くなって祖母を起こす。今思えば可哀想に、祖母も寝不足になっていたのだろう。

 

小学校の修学旅行で大広間に布団を並べて寝た。一人、二人…寝息が増えていく。

三時間経っても四時間経っても眠れず、あんまり心細くて

「誰か起きてるひと」

と声を出してみたら、返事が無かった。

 

年の瀬も近づいた一昨日、好きな本屋に行った。

いろいろな本を手に取っては開き、また棚に戻す。

だけど、『よるのむこう』という絵本は、何度も何度も開きたくなる。

nakabanさんの絵に吸い込まれる。

夜の向こうに何があるのか知りたくなる。

あんなに苦手だった夜の向こうに。

ああ、そうそう、こんな気持ち分かる。

こんなものが見えていたんだ、と思い出す。

 

そうして

よるのむこうに、何があるか、わかった。

 

素敵な絵本。夜になるたび、ベッドで開く。

今日は大晦。

また、よるのむこうを開いて夜に溶けてしまおう。

もう、夜は怖くないね。

 

 

f:id:marico1209:20191231190628j:image

 

 

 

I WILL 69 YOU (南佳孝)

あれは何年前だったかしら。いや、何十年前だったのか。

自分が暮らす小さな街の小さなホールで、南佳孝さんのライブがあった。

当時19歳くらいだった私は、南佳孝さんをきっかけに付き合い始めた人と観に行った。

好きな曲もたくさん聴けて、もっともっと楽しみたいのに周りの観客が最後まで座って動かず不完全燃焼で終わったことを思い出す。

 

今年12月17日。南佳孝さんのライブ「I WILL 69 YOU」に出かけた。

佳孝さん69歳なのだって、ますます魅力的に見えた。

ゲストも豪華で、メンバーもとても豪華。

ゆっくりと、あたたかく、穏やかで楽しいライブだった。

 

あー、初めて行ったあのライブの時は、まだ子どもだったんだなぁと思う。楽しみ方を知らなかったんだ。

 

新しい曲と懐かしい曲。

ファンだとか、そんな意識は持っていなかったけれど、ぜんぶ歌える。

19歳からずっと聴いてきたんだということが、改めてよくわかった。

 

思い切ってチケットを取って良かった。

遠い遠い六本木まで行って良かった。

良いライブでした。

ありがとうございました。

 

 

f:id:marico1209:20191223082031j:image

 

 

 

 

日日是好日(森下典子)

最近、めっきり忘れ物が増えた。

ここ一月半ほど、いつもと違う生活をしているので余計かもしれない。

どんなに確認しても、見直しても、落ち着いてみても、一日に必ず一つ忘れ物をする。

気をつければ気をつけるほど、ああまた忘れたと落ち込む。

落ち込んでいると、娘に

「お母さん、次のことばかり考えてるでしょ」

と、言われてハッとする。

そうだ。何かをやりながら、これが終わったらあれをしようと考えている。あれをやっていたら、それも目に入ってそれをして、あれを途中止めしていたことに気づく。

あれこれそれ、あれこれそれ、とくるくる回っている。

 

そんな合間に、友人が一冊の文庫本を薦めてくれた。

森下典子さんの『日日是好日』。

とても面白くて一日で読めたよと聞いて、借りて帰った。

 

著者がお茶を習い始めて、長い年月の中で得たもの。得ようと思わず得ていたこと。

一期一会ということ。

今を味わうということ。

雨の日は雨を聴くこと。

本物の自由。沈黙の熱さ。学び。気付き。育てるということ。

 

なるほどなぁ…

読みながら、

「少し立ち止まってみれば?」

と、そっと声をかけられたような気がした。

なかなか落ち着けないけれど、この本に出合ったことも一期一会。

生きるって、濃いね。

 

f:id:marico1209:20191128224113j:image