初めの映像を見ながら、どんな山奥に暮らしているのかと思っていると、住宅地の一角だった。
『モリのいる場所』は、画家の熊谷守一の晩年の"ある一日"を描いた作品。
有名な人を題材にしている映画なので、その"生涯"がテーマになりそうだけれど、違っていた。
調べてみると、その敷地は三十坪くらいらしい。そんな小さな家と庭を、モリは毎日何時間もかけて探索する。夏なので、小さな虫や爬虫類が忙しそうに動き回っている。ときどき猫も顔を出して、ご本人が掘った池には魚も泳ぐ。
その家には、モリと奥さんと姪の三人が暮らしている。だけど、一日のうちに来客が後を絶たない。とにかく慌ただしい。そして、楽しそうなのだ。
奥さんを演じる樹木希林が良い。この人が主役じゃないかと思うほど大きな位置にある。そして、姪役の池谷のぶえがまたまた良い。他のキャストもそれぞれが個性的で、この中で主役の佇まいを見せられるのは、やはり山崎努じゃなきゃならないのかなと思ったりした。
コメディやファンタジーの要素もほんの少し。
クスクス笑いながら、しんみり頷きながら、ほんわりと人生を教えられる。
誰も責めず、誰も妬まず、誰も蔑まない。
今の世の中に欠けてしまったそんな目線を、思い出させてもらえる。
考えてみれば、劇場で映画を観たのは十年ぶり。
忙しかったなんて言い訳に過ぎない。誘ってくれた友人に感謝しよう。