先月から、病院に実習生が来ている。三週間でワンクール。2クールが終わった。
父の担当になった人は、最初の三週間は女子で、次が男子。男子と言っても、三十代くらいだろうか。初めて挨拶されたときには少し驚いた。
二、三日後、その学生さんと少し話をすると、前の病院で担当患者さんに男性だからと拒否されてしまったそうだ。
「明日から来ないで、と言われたんですよ。でも、お父さんは僕を嫌がらずニコニコ笑ってくれるから嬉しいんです」
と、言ってくれた。
その学生さんは、動けない父を車椅子に乗せてリビングホールへ連れて行ってくれる。隣に座って一緒にテレビを見たり新聞を読んでくれる。本が好きな父のために芥川龍之介を読んでくれる。医療用ミトンを外して、お湯で両手を温めてくれたり、盥で足湯もしてくれる。父は益々ニコニコして、毎日嬉しそう。
たまに、女子の実習生も顔を見に来てくれる。
「わたし、お父さんの笑顔を見てるとなんだか心が浄化されるんです」
と、笑ってくれる。
次女がまだ中学生の頃。あまりにも勉強が嫌でどんどん成績が落ちていったことがある。その時、私はとても悩んで父に相談をしてみた。父は
「人は必ず誰かの役に立つように出来ている。ただ、この子は勉強で役に立たないだけだ。この子には、なんとも言えない良い笑顔がある。きっと笑顔で役に立つんだよ」
と、言ってくれた。
今、父は、認知症で会話もままならず、終末期で力も無くなってしまったけれど、そうやって笑顔で誰かの役に立てているのかなと思う。
人は、死ぬ直前まで誰かの役に立てるのだと、教えてもらっているような気がする。
わたしも出来るなら、そんな風になれると良いけれど。