今年の春は、なかなか暖かくならない。
家の中では、いつまでもウールのセーターを手放せない。
桜は満開を終えてハラハラと散り始めた。家の庭も車も淡いピンク色に埋まる。
つい先日まで、なんとなく気持ちが上がらなかった。
この季節は"木の芽立ち"とか"芽吹き病"とか言われて、芽を出す生命力が人のエネルギーを取っちゃうのだそうだ。
海のそばを運転していたら、南佳孝の「デ・ジャ・ヴー」を口ずさんでいた。
1981年にリリースされたオリジナルアルバム『SILK SCREEN』に収録されている。
当時、片岡義男の『スローなブギにしてくれ』がきっかけで知り合った人から、同タイトルの映画に誘われた。その映画の主題歌がこのアルバムに入っていて、二人で何度も聴いてライブにも出かけた。
もう、せつなさは残っていないけれど、このアルバムはずっと好きで聴き続けている。
「デ・ジャ・ヴー」は、中でも一番好きな曲。松本隆の詞が情景を思い浮かばせる。
私はその情景の夢を何度か見ている。誰かと波止場を歩き、海辺の店でテーブル越しに食事をしてお喋りを楽しむ。
ただ、いつもその相手の顔が見えないまま眼が覚める。
その人は誰なのか、今だわからない。
もしかするとこの先に出逢うのかもしれないし、もう出会っているのかもしれない…
そんなロマンティックなことを考えながら空を見上げて、今日も暮らしに戻る。