実は未だ、一度も一人暮らしをしたことがない。
高校を卒業したら親元を離れようと、いや離れたいと考えていた。自由気ままな学生生活に憧れ、東京にある美大を受験することにした。
そのためのデッサン塾にも通い勉強もしていたけれど、母親の猛反対に遭い、涙ながらに諦めた。
それからずっと、一人暮らしの夢は叶えられていない。
早川義夫さんが、奥様を亡くされた後どうしているのか気になっていた。以前、このブログに書いたように、突然姿を消したからだ。姿を消したと言っても、私のような一般の読者の前に現れなくなっただけ。それでも、パッタリと見えなくなると心配になる。
だから、その一年後2020年に『女ともだち』が出版された時はホッとした。ホッとしたのも束の間、また早川さんは見えなくなった。
そして三年後の2023年、『海の見える風景』発行のお知らせ。すぐに予約した。
海の見える地に、終の住処を見つけて引越したそうだ。そこに一人で暮らしていらっしゃる。
自分で料理をしたり掃除をしたり。ステキな食器を見つけて購入したり、好みな女の子と朝食を食べたり。飼い犬のゆきちゃんと海岸を散歩したり。
あー、お元気そうでよかった。
そう思ったのだけど、読み進めていくうち、だんだん胸がしめつけられる。さみしさが、至る所から顔を見せる。何をしていても何を見てても。
美味しいものは毎日食べられる。
願いが届きそうな曲はまた聴きたくなる。
言葉を失ってしまう映画はもう一度観たくなる。そのたびに発見がある。
好きなのに好きと言えない人にはまた逢いたくなる。
なんだか、あんなに憧れていた一人暮らしを、もうしなくていいかなと思う。
一人が好きだけどずっと一人は寂しいだろうな。
誰か人の気配が欲しいな。
そんな気持ちがちょっとだけ湧いてくる。
早川さん、少しずつ少しずつ元気になってください。
最愛のしい子さんにもう一度会えるときまで、少しずつ。少しずつ。