まだ夢の中にいるような日々。
目を醒ませるために、とりあえず美容院に行ってみる。
そこで開いた雑誌に、浅田次郎のインタビュー記事があった。
一時、浅田次郎の作品をたくさん読んだなぁと思い出す。
『壬生義士伝』、『プリズン・ホテル』春夏秋冬四巻、『蒼穹の昴』四巻、『珍妃の井戸』、『中原の虹』四巻、『地下鉄に乗って』、『鉄道員( ぽっぽや )』、『月島慕情』、『月のしずく』、『霞町物語』…などなど。
長編は苦手。歴史物も苦手。戦争も苦手。
だったはずなのに、浅田次郎の作品に限り、そのすべてを手に取り黙々と読んだ。
読みながら姿勢を正したくなる。だけど、面白くて笑ってしまう。そして、いつまでも胸に残る。
何故だろうと思っていたら、インタビューでその理由がわかった気がした。
僕のモットーは、「おもしろく、わかりやすく、美しく」。
フロベールの言葉に「ひとつのものを表すにはひとつの言葉しかない」というのがある。最善の言葉を見つけ出し、それらを組み上げていくことで美しい文章が生まれ美しい物語になる。
小説は嘘の世界だけど、ただの嘘じゃ書いてても読んでもつまらない。最低限の約束は守る、責任は取る、嘘をつくだけの土台を固めた上で、大嘘をつく。つまらない小説を読むと、「自分の小説もこう読まれていたら…」と思って怖くなるから。
「次の段階で直そうと思うと、最初から間違う」 、これは僕の作家的信条。次の段階で直そうと思ったらダメ。後でこう書けばよかったと思わないように、未来の自分に恥ずかしくないように。
こんなに精魂尽くして書かれているから、苦手も何も関係なく読めるのかもしれない。
そして、自分の仕事も、こんな風にやらなきゃと思う。一つひとつに妥協せず、心を尽くして。
そう思って少し、目が醒めてくる。