not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

Dulcimer ( りりィ )

りりィを初めて聴いたのは、まだ小学生の時。家庭教師のお兄ちゃんの車の中だった。

当時、母は路地裏で小料理屋をやっていた。お酒と料理の小さなお店で、其処へ通っていた大学生の一人が、私の家庭教師だった。

後に聞いた話では、学生達は皆んなお金が無かったので、飲食代の代わりに母の店の掃除や片付けをしてくれていたそうだ。そんな仕事の一つが、私の勉強をみることだったらしい。そして、私が一人っ子なので兄のような存在があればと「先生」では無く「お兄ちゃん」と呼んでいた。

 

店から自宅までは、車で三十分ほど。私の通う小学校は店の近くだったので、お兄ちゃんは下校した私を自分の車に乗せて連れて帰ってくれていた。勉強だけじゃなく、プールへ連れて行ってくれたり色んな話をしてくれた。

お兄ちゃんにはとても可愛い婚約者がいて、時々彼女も一緒に三人で出かけた。お兄ちゃんも彼女も優しくて、今思えば、あんなに良い人達はそうそういないとわかる。

 

その車の中で聴いたのが、りりィの『ダルシマ』というアルバム。

それまで、店の有線やテレビで聴いていた歌謡曲とは全く違うジャンルの音楽に心を打たれた。

その頃、自宅にはオーディオがあり、父が休みにはジャズを聴いていた。

そんな父に、りりィのダルシマというレコードを買って欲しいと頼んだら、すぐに買って来てくれた。オーディオは複雑で、子どもの自分には操作出来なかったので、父と一緒に聴いた。そうしたら、父も気に入ってくれて、りりィのレコードは少しずつ増えていった。

 

家庭教師のお兄ちゃんは、それから二年後に大学を卒業して横浜に就職。

婚約者と結婚したという便りをもらったけれど、歳月とともに自然に連絡は途絶えた。

二十年近く経って、私が結婚して長女を産んだ頃、お兄ちゃんが出張でこちらへ来て店に寄ってくれた。小料理屋は母の妹が継いでくれていたので、其処から私へ電話をしてくれた。懐かしくて「お兄ちゃん」と呼んだら、「もうお兄ちゃんじゃない、おじちゃんだよ」と笑った。変わらない話ぶりで嬉しかった。

 

りりィの曲は、私にとって宝物。そのレコードはいつの間にか実家から消えてしまっていたけれど、今はCDを少しずつ買い集めている。

そして、彼女が二年前に亡くなっていたことを、つい三日ほど前に知った。

時代は変わっても、彼女は無二の大好きなアーティスト。

いつまでもその作品や映像が残りますように。

 

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