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最後の伝言 save the last dance for me(原田マハ)

驚いたなぁと、この短編を読みながら感じた。
原田マハの『最後の伝言』は、表題『あなたは誰かの大切な人』という文庫の最初にある。

享年七十三歳のお母さんの葬儀から始まる。残されたお父さんと娘姉妹。
そのお父さんとお母さんが、自分の父母に重なる。なんだか似ているのだ。

母が私を出産するとき、父は行方不明だったらしい。朝まで飲み歩いているところを、父の友人が見つけ出して産婦人科まで連れて来たと聞いている。
母は小料理屋をやっていて、夜は不在だった。だから父は淋しくて毎晩お酒を飲みに出かけていた。

父の勤務先は、建設会社の経理部。仕事は几帳面で評判も良かった。
なのに、友達と高級料亭に行き支払いが足りなくて母がお金を持って走ったり、自分の給料はすべて飲み代に使い、不足は母が毎月支払いしていたと言う。

この小説みたいに、父はお洒落でカッコ付け男だった。私にとっても、密かに自慢の父だった。そして同じように、母が息を引き取るとき、父はいなくなった。寿司屋でお酒を飲んで家に戻って寝ていたのだ。
ただ、この小説と異なるのは、父に女関係だけは無かった…と、母が言っていた。

そうだ、そうだ。
越路吹雪の歌を、母はよく歌っていた。私もその曲が好きで、同じように歌っていた。

母を看取って、その顔を見たとき。
一番に感じたのは、私はこの人の人生の半分も知らないということ。
父にも母にも、私の知らない思いや出来事がたくさんあるのだ。

涙を堪えて読んだ。
子が親を送るのは一番普通のこと。
まだ、泣くわけにはいかない。

 

 

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