not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

くじけないで( 柴田トヨ )

この本に出逢ったのは、父を初めて連れて行ったデイサービスの部屋。
七年前、父が七十二歳のとき、母を亡くしたショックから気持ちが病んでしまった。まず、お風呂に入らなくなった。人は本当にこんなに汚れるんだと感じた。
どんなに頼んでも泣いても、入ってくれない。
駄目元で家から少し離れた銭湯に連れて行ったら、すんなりと入ってくれた。
それから四年間、その銭湯に通い続けることになった。

家にいる時は、すべての鍵を持って庭を歩き、あらゆるドアの鍵穴に入れて開閉を繰り返した。必死の形相で、家の周りを何周も回り、中に入ったら内側から何十回も確かめ、終わることがなかった。

私の家に連れて帰るととても嬉しそうだったけれど、夜になると混乱して家の中や外を歩き回り眠らない。

後部座席の父を連れて、いっそこのままガードレールにと、何度も考えた。自分も、何が正常で何が異常なのかわからなくなってくる。

ようやくたどり着いた介護認定、ケアマネさんも埒が開かなかった。

そんな折、介護の仕事をしている友人が声をかけてくれて、彼女の働くデイサービスに誘ってくれた。

デイサービスの職員の方々が、父の好きな百人一首を用意してくださり、札を並べる。父は急にものすごく大きな声で
「秋の田のかりほのいほのとまをあらみ〜はっはっはっ」と、高笑いをした。
何度も何度も、叫ぶように繰り返す。他の利用者さんが驚いて苦笑する。

父のそんな姿が受け入れられず、悲しくて悲しくてやりきれなかった。
居た堪れず席を立って振り向いた時、棚の上にこの本があった。
開いてみると
「私 辛いことがあったけれど 生きていてよかった あなたもくじけずに .... 」
と書かれていた。少し希望が見えた。
翌日、すぐに本屋へ買いに行った。

いつも思うのは、本との出逢いは偶然ではないということ。
この本にも、会うべくして会ったような気がする。

それから施設に入所するまで、本当に沢山の障壁にぶつかり、その度この本を開いた。

11月16日で、入所丸三年になる。
病気は進んでいるし、今だ帰り道には泣ける。それでも、父の笑顔を見るたびこれで良かったのだと思う。
母もきっと、あの空で笑ってくれているはず。

 

 

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