読みながら、ドラマの場面が見えてくる。この小説がそのまま脚本になりそうで、キャストを考えて楽しんだりする。
実際、ドラマや映画になったようで、たみに田中裕子は適役だと思った。
自分が読んだ向田邦子の小説のどれにも共通しているのは、"黙す"ということのような気がする。
黙っていることが、本当は一番言いたいこと。
黙している想いが、一番たいせつなもの。
それは何があっても決して口に出さず、誰が気付いていても決して問わない。
そんな想いを抱いて生きるのは苦しいけれど、考えようによっては幸せ。
言ったすべての願いが叶うなら、もう魅力は感じられないだろうから。
「あれ、なんていったかなあ、ほら、将棋の駒、ぐしゃぐしゃに積んどいて、そっと引っぱるやつ」
「一枚、こう引っぱると、ザザザザと崩れるんだなあ」
ザザザザと崩れないように、黙す。
自分の中にあたためて、墓まで持っていく。
もしかすると、それが人生の醍醐味なのかもしれない。