人生には、思うままにならないことがいっぱいあります。そして、それは悲しいことでなく、ありがたいことでもあるのです。
自分の思うままになる世の中というのは、同時に、他人の思うままになる世の中でもあるわけですから、それが実現したらお互いは安心して生きてゆけなくなるでしょう。
なぜなら、人の思いの中には、良からぬものもまた多いからです。
渡辺和子さんの言葉。
山田詠美さんの『色彩の息子』を読んでいたら、それを思い出した。
そう。人の思いの中には、良からぬものもまた多い。良からぬものというのは、誰かを傷つけたり痛めつけてしまうもの。
誰だってわざわざ人を傷つけたくないけれど、何かのきっかけで…
この短編に書かれているように、ほんとに小さなきっかけで恋にも落ちるし、狂気も生まれる。そして、大間違いも起こす。
たくさんの言葉をほんとうに上手く、流れるように、甘く恐ろしく、宥めるように刺すように書いていらっしゃる。
普段の暮らしでは敢えて見ない人間の心中を、細かな感性で露呈する。
それは、他人であり自分でもある。
色々なことを思いながら探りながら、久しぶりに小説を完読した。