not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

古いアルバムの中に

アルバムの整理を始めた。 整理じゃない、処分だ。 自分が生まれた時から、結婚して娘達が産まれて携帯電話のカメラを使い始めるまでの数十年間に撮った写真たち。アルバムで30冊くらいある。 開けば懐かしい風景、人達、あーそうそう、あんなことこんなこと…

砂浜(佐藤雅彦)

「その村には、美浜と呼ばれる 湾に細長くとび出た美しい砂浜があった。」 装丁が良い。 撫でてみたくなるようなカバー。 余白を残した文字列。 青いイラスト。 穏やかに語られる子どもの頃の思い出。 読みながら、小学生まで、夏休みの度に祖父母の暮らす山…

なんで勉強するの?

以前、ほぼ日刊イトイ新聞『今日のダーリン』に、糸井重里さんが娘さんから 「なんで勉強するの?」 と訊かれ、返事を考えてみたという話があった。 私もその質問をよく受ける。 「大人になってルート計算とか使うの?」 「歴史の年号を覚えて何の役に立つの…

いとまの雪(伊集院静)

桜を待ちわびていたのはつい先日なのに、もう花は散ってしまった。 コロナはいつまでも蔓延り、戦争は止まず、人のエゴは途切れることがない。 綺麗に幕引きできる花や鳥を見習えば良いのにね。 ふとしたきっかけで、時代小説を読んだ。 伊集院静『いとまの…

はるになると(ジョーン・ウォルシュ・アングランド)

誰のためでもなく絵本を買うようになった。 娘たちが幼い頃は、家計も気持ちも絵本を買う余裕がなかった。 それなのに、今になって絵本がおもしろい。 この二冊は、小川糸さんのエッセイの中で見つけた。ジョーン・ウォルシュ・アングランド原作で小川さんが…

断片的回顧録(燃え殻)

なんだか、悲しくなるニュースばかり流れてくる。何気なくテレビを付けると悲惨な映像に立ち尽くす。そんな日々だけど皆んな元気ですかと、誰にともなく訊きたくなる。 SNSで『books are magic』というポスターを見つけた。そうだね、どんな時も本は背中を押…

向田理髪店(奥田英朗)

北海道の小さな町。 過疎化高齢化の進む地に暮らす人たちの心情やさまざまな出来事が描かれた連作集。 六編それぞれが完結するたび、ほわっと心あたたまる。 親をみるため町に残ったりユーターンした五十代。生まれ育った故郷の町おこしに情熱をかける二十代…

どんな旅の空にも美しい出逢いがある

旅は出逢いがあるから愉しいのだと、少しわかってきたこの頃。浜美枝さんのブログに、旅の話が書かれていた。 ある地に建つ趣ある旅館のこと。女将さんとの出会い。浜さんは、きっと何度か其処へ宿泊されたのだろう。 女将さんは、老舗の料理屋の娘さんだっ…

マフラー

年始に娘から 「お母さん、ベージュと黄色のマフラー持ってるよね。アレ、ちょーだい」 サラリと言われた。 あれはダメ。とても気に入っているの。 そんな会話を、昔したことを思い出す。 学生の頃、アルバイト先で二つ年上の男の子が巻いていたマフラー。赤…

スナックちどり(よしもとばなな)

ほんとうに久しぶりに、一冊一作品の小説を完読した。 以前は上下巻やそれ以上の長編も読んでいたのに、根気が続かなくなったのか小説という世界に飽きたのか、ここ数年間、短編以外の小説から遠のいていた。 読みたくなったのは、表紙に惹かれたのかもしれ…

ただしい暮らし、なんてなかった。(大平一枝)

大平一枝さんの文章に出合ったのはかなり昔で、初めにビビッと感じるものがあり、それ以来追いかけている。 子育ての時期は私の方が少しだけ早かったけれど共感できることが多く、そうそうと頷いたり笑ったりシンミリしたり。 家で仕事をしていることも、私…

会って、話すこと。(田中泰延)

そういえば、人に会って話すことが減ってしまった。 LINEやメールというツールもだけど、何よりコロナが大きな所以だろう。 以前は当たり前のように月一回会って食べてお喋りしていた友達が、今は当たり前のように誘い合わなくなった。誘わないことが思いや…

Journey (桑田佳祐)

朝目覚めて動き始めると、頭の中に曲が流れる。 誰もがそうなのか、私だけなのかわからないけれど、日々異なるメロディーが流れて一緒に口遊んだりする。 一昨日の朝は少し涼しくてコオロギが鳴いていた。頭の中で突然、桑田佳祐の『Journey』が聞こえてきて…

行きつけ

子供のころ、行きつけの店が四軒あった。 一つはパン屋。横断歩道の無い片道二車線のロータリーを渡るとすぐにある。いつもガラス戸を開け放していたので、白い三角巾とエプロンのおばちゃんが二人、道路を渡る私を見てニコニコと笑ってくれる。 「バナナロ…

めがね

嬉しい二連休。 初日は美容院へ行って少し買い物、二日目の今日は雨の音を聞きながら家でのんびり。 久しぶりに映画『めがね』を観た。 『かもめ食堂』に次ぐ荻上直子監督脚本の作品。 好き嫌いはあるだろうけど、私はとても好き。 ゆっくり流れる時間。丁寧…

また旅(岡本仁)

大暑は何処かへ消えて立秋がやって来た。 何十年も同じ仕事をして、初めて二日間の夏休みを取ってみる。わざわざ休むというのはどうも気が引けてなかなか思い切れなかったけど、やってみれば何てことはない。 せっかくの連休でも、コロナ禍と長雨で遠くへ出…

これはただの夏(燃え殻)

夏の思い出は、一人ひとりの記憶の引出しに大切に仕舞われている。 甘いもの辛いもの、苦いもの、せつないもの。 たとえば1つの曲。 聴くたびに蘇る"あの夏"と"あの人"と"あの風景"。 でも、"あの人"も私と同じ記憶を持っているわけじゃない。意外にも相手…

夜中の薔薇 (向田邦子)

時々開く本が、数冊ある。 なんだかうまくいかないときやモヤモヤが続くとき、自分の判断や言動がいつまでも気になってしまうとき、本の中に忘れてきたものを探しに行く。 向田邦子さんの『夜中の薔薇』も、その一つ。 1981年に刊行された最後の随筆集だ。 …

風の強さがちょっと心を揺さぶりすぎて

コロナ禍という初めての状況の中で、今までしたことのない特別な日常を過ごしている。友人にも会わないように、人の多いところには出かけないように、マスクを決して外さないように。仕事をして家事をして、美容院くらいは出かける。 そんな一年半の間に、二…

もう一杯、飲む?

9人の作家が紡いだ「お酒のある風景」をテーマにしたアンソロジー。 それぞれにおもしろかったけれど、個人的には燃え殻さんの『これがいいんだ』と、島本理生さんの『その指で』が好き。 あなたにとって、お酒とはどういうものでしょう。 私が子供の頃、母…

GISELe

好きな雑誌は?と訊かれたら、一番に思い浮かぶのがジゼル。 でも、これが、年齢のギャップが大き過ぎてなかなか言えない。 だからこっそり毎号買っている。リビングに置いていると、娘たちが喜んで見る。 先ず、表紙が好き。 写真が良い。透明感のある色彩…

姥ざかり花の旅傘ー小田宅子の「東路日記」(田辺聖子)

女に老いると書いて「うば」と読むのだなぁと、題名を見て思う。 五十三の宅子(いえこ)さんと、五十一の久子さんが北九州からお伊勢参りの旅をするお話。 江戸時代に。 新幹線も飛行機もバスも無い、山や川を越えて歩いたり渡し船に乗ったりしながら。 私も…

夢に迷って、タクシーを呼んだ(燃え殻)

家から5分ほど歩いたところに本屋がある。 読みたい本はネットで買わず、其処に注文している。 地方だからなのか、発売日から十日ほど遅れて届く。 あーやっと来た…なんて歩いて受け取りに行く、そのひと時がとても嬉しい。 『夢に迷って、タクシーを呼んだ…

上機嫌な言葉366日(田辺聖子)

心配性で困る。 自分のあの言葉が相手を傷つけていないかという心配。 返事が来ない相手に何かあったんじゃないかという心配。 書かなきゃよかった、言わなきゃよかった、訊かなきゃよかった。 ま、どの心配も徒労なのだけど。 年上の女性が書いた本が好き。…

桑田佳祐「静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~」

コロナ禍で、アーティストのLIVE自粛や延期が続いている。 そんな中、無観客のブルーノート東京で開催された桑田佳祐ソロライブ配信を観た。 ライブが始まる前に、ファンがSNSで一曲めの予想をしていた。 そうなのよね。一曲めって、私にとっても本当に興味…

ダーリンは75歳(西原理恵子)

西原理恵子さんご本人が「下品」と公言するこのシリーズは、「ダーリンは70歳」から6冊目。 あの高須クリニックの院長と、漫画家西原理恵子さんのバカップルぶりが描かれている。 確かに表現は「下品」かもしれない。 でも、私の思う「下品」とは違う。 本当…

wonder(R・Jパラシオ著 中井はるの翻訳)

自分では選ばない本がある。 私のそれは、戦闘、災害、病気…などに関する本。 嫌いとか好きよりも、悲しすぎて最後まで読めないことが多い。しかも、考えすぎて当分抜け出せなくなったりする。 『wonder』も、たぶん、そのジャンルだと思っていた。 近所に住…

あたらしい東京。

この季節は、家に篭って仕事をする時間が増える。 それは例年のことだけど、今年はコロナ禍で余計に出かけない。 家族が居ない時はリビングで、家族が在宅のときは二階の部屋で、一人黙々と…いやモヤモヤと…机に向かっている。 よし、ここで休憩。 ハーブテ…

相談の森(燃え殻)

誰でも、一度は悩み事を人に相談したことがあると思う。 そしてきっと、一度は人から相談されたこともあるはず。 私は相談されるのがとても苦手。 話を聞いたら、まずアタマが真っ白になる。 何を言ってあげれば良いのか思いつかない。 相談された自分の方が…

女ともだち(早川義夫)

2018年5月10日 「5/20(日)鎌倉歐林洞のライブを最後にしばらく休みます。再び歌い始めて25年ありがとうございました。」 という呟きを置いて、早川義夫さんは本当に姿を見せなくなってしまった。 何年前だったか、著書『たましいの場所』のあまりにも真っ…