not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

海の見える風景(早川義夫)

実は未だ、一度も一人暮らしをしたことがない。 高校を卒業したら親元を離れようと、いや離れたいと考えていた。自由気ままな学生生活に憧れ、東京にある美大を受験することにした。 そのためのデッサン塾にも通い勉強もしていたけれど、母親の猛反対に遭い…

ミラーボールのお月さま

桑田佳祐のライブの知らせが届く。 『JAZZと歌謡曲とシャンソンの夕べ』 いいかも、いいかも。 会場は、Blue Note Tokyoとクラブ月世界。 おー、待ってました。 ん?クラブ月世界て何処だろう。 検索してみると、神戸三宮のライブホール。 昭和のキャバレー…

帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。(高山なおみ)

夢と現実が混ざり合う感覚。 雨の音、赤ん坊の声、タクシーの運転手、ピアノ曲、みどりいろの電気…。 それが幻想なのか実際に起きているのかわからなくなるような。光と影の合間をユラユラと揺れているような。そして、それを楽しんでいるような。 この本に…

guitar

二歳の男子と二人で昼を過ごす。 アンパンマンのギターを持って、私に歌を歌えとせがむので『TSUNAMI』を歌ったら、首を横に振り続ける。 仕方ないので『真夏の果実』を歌ってみると、諦めたような顔をしてギターの弦をポロポロと指で弾く。 おまえはバンド…

これがあたたかい食べものになりますよう

13年前の3.11、私はたまたま婦人科の待合室にいた。前の日、お風呂の中で乳房に塊を見つけて驚いた。スーッと血の気が引くような気持ち。 当時はまだ認知症の父が実家に一人で暮らしていて、身の回りのことは私が通いながら世話していた。だから余計に、自分…

わたしの献立日記(沢村貞子)

散歩の途中に買った本をテーブルに置く。 「いいなあ、毎日楽しいでしょ」 娘に訊かれると、仕事してない自分が何だか後ろめたくて 「いや、そうでもないよ」 なんて応えてしまう。 楽しいかどうかはわからないけど、確かに気楽になった。時計ばかり見なくな…

なぎさホテル(伊集院静)

人生には、回り道や寄り道が必要だ。 そんな言葉をよく耳にするけれど、私は過去のことをあまり憶えてないので、どれが回り道でどれが寄り道だったのか。それでも記憶を辿っていたら、ああ、もしかすると、今がそれかもしれないと気づいた。 『なぎさホテル…

フリーズドライ(ササキアイ)

アイさんの文章に出会ったのは二年前の春、Twitter(X)の「おすすめ」に流れてきた。 100文字ほどの呟きが自分の琴線に触れて、うわあ…と固まってしまった。 SNSの文章が好みで気になった人は大抵エッセイを書いていらして、リンクから読みに行くと、益々好き…

女という生きもの(益田ミリ)

タイトルに惹かれて買ってみた。 みうらじゅんとクドカンを読んだ後だし、スルスルと読めそうなものを選んだつもりだった。 でも、実際読んでみると、とても真摯な本だった。 文庫のあとがきに 「たんたんと書くことでしか放出できぬ憤りがあったのだろう。…

ブルーハワイ(燃え殻)

あー、とうとう全部読んでしまった。 読み始めた本がとてもおもしろいとき、小説なら先を知りたくてどんどん進むけれど、エッセイの場合、私は出来るだけ最後まで辿り着かないよう少しずつ読む。美味しくて個包装で賞味期限の無いお菓子を、一つずつ一つずつ…

会いたくなったら歌うよ、昔の歌を

仕事を止めて三ヶ月経った。 空を見て本を読んで散歩をして料理をする。 友だちが訪ねて来てお喋りをして見送って夕焼け。 三十年以上、そんな暮らしに憧れていた。 仕事をしていない友人が羨ましくて堪らなかった。 それでも同じ仕事を続けてきたのは何故だ…

あはれ秋風よ

母は二年間の闘病後、天国に旅立った。 父はそれから八年生きて、母のところに行った。はず。 母がいなくなって、父はだんだんと気持ちが病んで認知症になった。 私は自分の家から車で一時間、父の家まで週五日通った。お風呂を嫌がる父、病院を嫌がる父、何…

甘いカクテル色の空を仰げ

二十八のあいみょんの顔を見てお肌もふっくらスベスベで髪もツヤがあって瑞々しくてああ、一番キレイなときだなぁと自分の二十八の頃を思い出してみたけどいや、そうじゃないな今振り返ってみると自分が一番キレイだったのは五十だったような気がするそれな…

塾にも向き不向きがある

新しい町を、毎日少しずつ歩いている。 本屋、雑貨屋、パン屋…。気になる店を見つけるとすぐ入るのでウォーキングというより散歩。 先日は夕刻に思い付き、クリーニング屋まで歩いた。18時半くらいだった。 自転車や徒歩の小中学生とたくさんすれ違う。 皆ん…

本屋で待つ(佐藤友則 島田潤一郎)

山間の本屋「ウィー東城店」 経営する佐藤さん、彼の家族、そこで働く人たち、店を訪れる人たち、そして町の人たち。 時間の流れと共に様々な出来事があり、皆んなもお店も成長しながら「ゆっくり、元気になる」。 自分の仕事について語るのは、案外むつかし…

住み替えを終えて

住み替えは、トントン拍子に進んだ。 新しい物件を探すのも、四つほど見学して消去法とインスピレーションで一つに絞った。 それまで三十五年間暮らした家は、山と湖に挟まれた夕陽の美しい地にある。車が無いと何処にも行けないけれど、若い頃は何の不便も…

猫の背中は綿あめの匂い(ササキアイ)

母の臍から下には、編み上げブーツのように縦に縫われた大きな傷があった。 子供の頃、近所に昔ながらの銭湯があり、時々母と二人で出かけた。 その大きな傷は「ていおうせっかい」のもの。 私の母にも私にも、臍の下に同じ傷がある。 そして、同じように、…

あなたと逢ったその日から

桑田佳祐の『やさしい夜遊び』の選曲が好き過ぎる。 日本の曲も外国の曲も、ちょうど世代が重なるのでアタマやカラダに馴染んでいるのかもしれない。世代が重なると言っても私が子どもだった頃。 母の小料理屋の有線から耳に入ってきた曲たち。一人で留守番…

昔日の客(関口良雄)

読み終えた本は、手元に置いておくか手離すか決める。手離すものは近所の本屋に持って行く。古本と新書を扱うその店には、いつも穏やかな空気が漂っている。 友人から、本を買取ってくれるところはないかと訊ねられたので、その店を教えた。 数日後、彼女か…

スローシャッター(田所敦嗣)

仕事って何だろう。 そんなことを考えるようになった。きっかけはコロナ禍と年齢かもしれない。 若い頃は働くのが日常で前へ前へ進んでいたけれど、ふと立ち止まることが増えたなと感じる。 『スローシャッター』は、水産会社に勤務して25ヶ国を訪れた著者が…

暦レシピ(高山なおみ)

娘が二十歳で結婚したので料理など教えていなかった。本人も不安だったのか、私の大したことない何品かの作り方をノートに書いて持って行った。 たまに娘の家に行くと、手元にはノートではなくスマホを置いて手速く料理している。今は何のレシピだって出てく…

ウサギとカメ(斉藤和義)

豪雪が災害の記録をぬりかえる。寒波も、実は温暖化の仕業らしい。 奄美大島で115年振りに雪が降ったニュースを見たのは7年前だった。あれから何か変わったのかな。 コロナ前のライブで、斉藤和義が客席に「リクエストありませんかー」と訊いてくれた。 「う…

ジョゼと虎と魚たち(実写版)

(ネタバレあります) 田辺聖子の原作を確かに読んだのに、内容を忘れていた。初版が1985年だから、もう38年も前なんだ。 そして映画化されたのは2003年。ちょうど20年前。 なぜそんなに西暦が気になるかと言えば、当時の時代風景を知りたかったから。 障害者…

なんか女なんてめんどくさいじゃない

小さな失敗が続く昨今。玄関の鍵を開けたまま寝たり、台所のセラミックヒーターを消し忘れたり、そんなヤラカシ。でも、毎日続くとちょっと落ち込む。 新刊を読んだり週刊誌の連載を追いかけたり、知らない曲を聴いたりカタカナばかりのアーティスト達に感心…

薄紅の秋桜が秋の日の

「こうやって着物を用意したのは、私達の年代までですよね」 同世代と思われる着物買取店の奥さんが、そう話しながら手際良くたとう紙を開いていく。 訪問着、黒紋付、色無地、帯や小物を合わせて四十点ほどを持ち込んだ。 「きっと、中を開いてらっしゃらな…

新しい季節は

一年に四回ほど行く洋服屋で秋物を買った。 娘くらいの歳の店員さんが見送ってくれる。 実はわたし、今月いっぱいで此処を退職するんですと言う。今までの経験を活かせる新しい仕事を見つけたいそうだ。そして、今まで優しくしてくださってありがとうござい…

双葉(あいみょん)

NHKで、18祭という番組を観た。 あいみょんと一緒にステージに立ちたい日本全国の18才世代が、メッセージを動画で送る。 あいみょんがそれを一つひとつ観て曲を作り、応募した1000人と共に歌う。 コロナ禍のため、農業高校の実習が出来ない男子たち。このま…

夏休み

八月も後半。 子供たちの夏休みも残り十日ほどになった。 近所の中学生達に会うたび 「宿題終わった?」 「まだー」 問題集に課題作文、読書感想文と自由研究…。 訊いてみるとその内容は、私が中学生だった頃と何も変わらない。 芸が無いなぁって思う。 今や…

古いアルバムの中に

アルバムの整理を始めた。 整理じゃない、処分だ。 自分が生まれた時から、結婚して娘達が産まれて携帯電話のカメラを使い始めるまでの数十年間に撮った写真たち。アルバムで30冊くらいある。 開けば懐かしい風景、人達、あーそうそう、あんなことこんなこと…

砂浜(佐藤雅彦)

「その村には、美浜と呼ばれる 湾に細長くとび出た美しい砂浜があった。」 装丁が良い。 撫でてみたくなるようなカバー。 余白を残した文字列。 青いイラスト。 穏やかに語られる子どもの頃の思い出。 読みながら、小学生まで、夏休みの度に祖父母の暮らす山…