二年前の春、父が逝去して実家を片付けた。
父の持ち物の大半は、本とオーディオとレコードだった。
それぞれをそれぞれの買取り店に持ち込んだ。
レコードは全部で200枚くらいあったと思う。その時、初めて中古盤専門店へ足を踏み入れた。
店の中は、迷路のような細い通路があり、棚にはレコードとCDが床から天井までぎっしり。
見れば見るほど興味深く、買取り査定してもらう間ずーっと棚から目が離せなかった。
田口史人さんの『レコードと暮らし』という本には、戦後から数十年間の、音楽だけじゃないレコードがたくさん紹介されている。
当時は、レコードが書籍の役割を持っていたり、記念品だったり、配布品だったり、商品の広告だったり、教材だったりしていた。
漫画家や文学者のレコードも多く、三島由紀夫のものや川端康成のもの…聞いてみたくなるものがいろいろ見つかる。
それから、ソノシート。
ソノシート?と疑問に思って調べてみると、あった、あった。
ペラペラの透けている小さなレコード。そして、フォノカード。
なんだか懐かしくなって、子どもの頃を思い出す。
そんなレコード達から、著者はいろんな場面を想像する。
それを制作した人達の気持ちや、それを買ったり聴いたりした人達の暮らしを慮る。
今は、何でもネットで調べれば正解らしきものが見つかる。
でも、果たして、そのすべてに正解が必要なのだろうか。
物に対する親しみや、物にありったけの気持ちを込めるという姿勢。
正解を探すより、自分で親しみ感じること。
それが楽しいのだろう。
中古盤専門店で、レコードに囲まれたとき感じたあのあたたかさや高揚感は、こういうことだったかもしれない。