not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

すべて忘れてしまうから(燃え殻)

『僕たちはみんな大人になれなかった』以来、燃え殻さんの書いた物を、Twitterも含め出来るだけ読んできた。

でも、週刊スパには困った。
最初は本屋で見つけられず、店員さんに尋ねて案内され、あれれーと思った。
これは買って帰ると家族が驚くだろうから、申し訳ないけれど立ち読みする男性達に混じり、小さい女が余計に小さくなって読んだ。

それから後、スパが出る度に本屋を巡る。
袋綴じになっていたり、早々に売り切れていたり、なかなか読めない。
読めないのにまた次週がきて慌てて探し歩く。
もう刊行についていけなくなってしまい、殆ど諦めてしまう。

そんな泣き言をTwitterに独言た日、思いがけず燃え殻さんからプレゼントが届いた。
#031「今夜は、笑い話かエロ話だけにしましょう」のページ画像を送ってくださったのだ。

こんなことってあるだろうか。
優しいとか、良い人とか、そんな単純なことではない。
燃え殻さんは今やベストセラー作家でもあるのに、見知らぬフォロワーに自分の作品をいとも簡単に読ませてくれる。
『すべて忘れてしまうから』の中にいるままの人だなぁって、ありがたかったし、あたたかかった。

隠れたロッカーの中で
「ここではないどこかに連れてってください」
と、八百万の神に真剣に念じたり

クリスマスイブにリンリンハウスで
「はい、似てます」
と、返事をしたり

いろいろなときの燃え殻さんが、今も変わらず文章を書いてTwitterで呟く。

いつか本になることを期待して待っていた。
だから、発売日にすぐ本屋に行ったら地方だからまだ置いてなかった。
Amazonは売り切れのタイミングだった。
やっぱり私はいつも出遅れる。
あちらこちら探して手元に届いたときは嬉しかった。

長く生きていると思い出なんて何でもよくなる。
だって、すべて忘れてしまうから。
忘れても変わらないものを抱いている人。
其処が好きなんだね、きっと。

 

 

 

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かもめ食堂

右脚の筋肉を痛めて、歩くこともままならなくなった。

家事も出来ず、仕事も休んで、自分のベッドの上で足の置き所を探して悪戦苦闘する。

痛みが続くと気持ちも塞いでくる。

 

ふと思い立って、『かもめ食堂』の文庫本を開いた。

読了後は『かもめ食堂』の映画を観る。

何度読んでも、何度観ても、好きな作品は気持ちがほぐれる。

そして、読むたび、観るたびに新しい発見がある。

 

この作品のテーマは「おにぎり」だな…

なんて思う。

かもめ食堂の看板メニューは、鮭と梅とおかかのおにぎり。

フィンランドの人にはあまり知られてないので、最初は誰も注文しない。黒い紙が貼ってある変な食べ物と思われたりする。

日本人でも、おにぎりは好きだけど知らない人が握ったものは食べられない、と言う人も多い。

 

三人の女性達は、日本でそれぞれの心にぽっかり空いた穴を抱えてフィンランドへ来ている。

北欧の大自然とゆったりした暮らしに吸い寄せられるように、気がついたらその地に立っていた。

でも、実際にフィンランドに滞在していると、現地の人達だってのんびり暮らしてるわけじゃないことが分かる。

誰だって悲しかったり苦しかったり痛かったりするのだ。泣きたかったり、我慢していたりするのだ。

 

おにぎりは、握る人の思いが美味しい。

相手のひと時の幸せを願う気持ちが、美味しい。

食べる人がそれを感じられた時、おにぎりは国境を越えて人と人を結ぶ。

 

かもめ食堂は、優しいけど強い。

痛さも辛さも誰に言ってもわからないし、わかってあげられない。慰めは大切だけど、やっぱり自分で立ち向かうしかないんだと、そっと教えてくれる。

 

 

エンディングの「クレイジーラブ」が、また良いのよね。

 

 

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(追記: 脚は十日ほどで回復しました。)

 

 

 

 

ビューティフルマインド

『ビューティフルマインド』は、2001年のアメリカ映画。ノーベル経済学賞受賞の実在の天才数学者、ジョン・ナッシュの半生を描いた物語。

 

この映画を観たくなったきっかけは、知り合いの男の子の言葉だった。

彼は近所に住む小学五年生。

明るくて素直でいつも楽しそうに歩いている。

そんな彼と私はよく話をする。

「僕はどうしてかわからないけど、字を覚えられないんだ。算数しかできないの。算数は全部わかるよ。それで高校に行ける?」

 

彼は時々、本を貸してくれる。

小学生版の伝記を持ってきて

「はい、宿題ね」

と笑う。

宿題を出されて三日後、

「ごめんね、忙しくてまだ途中までしか読めてないの」

と言うと

「忙しいならいいよ。忘れられてたら悲しいけどね」

なんて、戯けて答えてくれる。

 

字が覚えられないのは、お母さんが言うのに本当らしい。病院で、その病名ももらっている。

じゃあ、なぜ、本が好きなの?

「僕は、本を字で読まないからだよ」

と、ニコニコしている。

 

この子は、もしかすると天才なんじゃないかしらと思ったりする。

だから、『ビューティフルマインド』を観たくなった。

 

ただ、この映画は、彼のような天真爛漫な笑顔じゃなく、天才ならではの苦悩が描かれていた。

天才って、たいへんなんだなと感じた。

 

本読みの宿題を終えて彼に返すと、また新しい宿題の本を貸してくれた。

漢字テストで、いつも3点しか取れないんだよと教えてくれる。

私が笑いながら話を聞いていたら、

「それ以上馬鹿にしないで」

と、にっこり微笑んだ。

 

才能ある彼は、これからどんな人生を切り拓くのだろう。

ノーベル賞を受賞したりするのかしら。

いろんな苦難はあると思うけど、彼のビューティフルマインドがずっと消えないことを心から願っている。

 

 

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サザンオールスターズ 特別ライブ 2020 「Keep Smilin' ~皆さん、ありがとうございます!!~」

デビュー42周年。

桑田さんの顔を見て、あー年取ったなぁと思った。

それは他のメンバーも。

そして、もちろん自分自身も。

 

そんな40年も前には、サザンは私の住む地方の町にもライブに来ていた。

それを観に行った帰りに、駅の売店で楽しそうにお土産を選ぶ桑田さんと原坊に会ったこともある。

 

YouTubeで昔の動画を観ていたら、桑田さんがくわえ煙草でドラムを叩いていたり、逆らうような口調でインタビューに答えていたりする。

 

そんな彼らも時を経て、病気を経験したり克服したり、休業したり再開したり。

夫々が、それぞれに乗り越えたものがあって今の顔があるんだなぁと…今回の無観客配信LIVEを観ながら感じた。

その間に、自分もようやく自分の時間を持てるようになり、遠い会場のLIVEにも足を運ぶ。

今はもう、LIVEだけが嬉しいのではなくて、共にここまで来たねという泣けるような心持ちになってしまう。

 

この度のLIVEは、桑田さんのファンサービスだけでなく、LIVEに関わるすべての人達の生活応援のためでもあると聞いた。

スタッフさん達は、LIVEやるぞという報せを受けて飛び上がるほど嬉しかったそうだ。

 

デビューして何度めの夏が来ただろう

いろいろと皆さまのおかげです

世の中は予期しないことがあるけど

これからもがんばってまいりましょう

あなたに守られながら私はここにおります

笑顔を見せてください

また会う日まで待ってます

人生は世の中を憂うことより

素晴らしい明日の日を夢みることさ

愛する人よ…

 

どこまで元気でいられるかな。

がんばろうね。

サザンも私も。

 

 

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いつも旅のなか (角田光代)

お酒を飲まない私に、お酒を飲む人達は

「あなたは人生損してるよ」

と言う。

果物が苦手な私に、果物が大好物な人達は

「あなたは人生損してるよ」

と言う。

お酒を飲んでいる人達は楽しそうだし、果物を頬張る人達は幸せそうだけど、取り立ててそれが欲しいと思わない私は、そうなのかなぁと思う。

 

でも、飛行機に乗れない私だけは、もう、自分で自分に

「あなたは人生損してるよ」

と言いたい。

 

旅は大好き。

芭蕉のように、片雲の風に誘はれて漂白の思ひやまず。

奥田民生のように、さすらいもしないでこのまま死なねーぞと心に秘める。

だから、角田光代のように『いつも旅のなか』に飛び込める人が羨ましくて仕方ない。

 

せめて、この本で旅をする。

スウェーデンフィンランドやロシアの空気を想像して、イタリア、マレーシア、ベトナム、台湾、キューバアイルランド…頬を触る風や埃、人の声や顔を思い浮かべてみる。

 

角田さんはバックパッカーで、旅程を決めない。歩いたり見たり食べたり感じたりしながら考える。

そして、ハッと「わかる」。

旅の経験は心をどんどん大きくする。

 

私はバックパッカーにはなれないし、一人旅はちょっとさみしい。

今はコロナウイルスでどこでも行けないけれど、それでもまたいつか旅立てるかな。

とりあえず、飛行機恐怖症をなんとかしなくては。

 

 

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娘心にブルースを (原由子)

『娘心にブルースを』を思い出させてくれた方があり、再読。
再々読だっけかな。笑

 

著者は言わずと知れたサザンオールスターズのメンバーであり、桑田佳祐の奥さん。

 

そんな彼女が1998年の四十一歳の時に書いたエッセイ。

"天婦羅屋の娘"から"生まれ変わったら"まで、嬉しいことも失敗もせつなさも迷いも、原坊がすぐそこでお喋りしてくれているように綴られている。

 

彼女は、私にとってwinnerの象徴。

好きな人と結ばれて、好きな仕事をして、それが成功している。

でも、原坊がいつもニコニコしているのは、そんな恵まれた人生だからじゃなくて、生来持っている天使みたいな性格に拠る気がする。

だから、憧れとか、やっかみとか、そんな感情を擦りもしない逸脱した存在なのだ。

 

先日、桑田さんがラジオでゲストの原坊を紹介するとき

"サザンオールスターズの守護神"

と呼んでいた。

あー、まさにそれなんだろうと誰もが納得できる。

 

もっと前、桑田さんがライブに行きたくない朝、原坊があの笑顔で

「みんな待ってるよ」

と声をかけてくれて、立ち上がれたそうだ。

 

いいな、いいな、そんな女性になりたいな。

ちょっとだけ自分を反省できるエッセイ。

 

恋するのなら瞳で語れるような…

そうか、winnerは、そんな女性に愛されてる桑田さんなんだね。

 

 

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フランス日記 (高山なおみ)

何年前だったか。

雑誌で初めて見つけた高山なおみさんの料理は、素材の色も味もそのまま生かされていてとても気に入った。

使われている器がまた好みで、著書を探した。

レシピだけでなく、エッセイを織り交ぜた『日々ごはん』には、飾らない日常が綴られている。

 

『フランス日記』は、その日々ごはんの特別編で、高山さんが初めて訪れたフランスの滞在日記。

フランスの食文化や人々の暮らし一つひとつに驚いたり感心したり疲れたり。

眠ったり食べたり喋ったり歩いたり。

食べるって生きること、生きるって五感を動かすこと。

そんないきいきとした風景や食材の様子を読んでいたら、なんだか自分もフランスを旅しているような感覚になってくる。

 

私は飛行機が苦手で、もう死ぬまで海外には行かないつもりでいる。

でも、フランスには何か特別な思いがあって、この本を開くたび、今の騒動が終わったらちょっと勇気を出してみようかしらと考えてしまう。

 

パワーを失いそうな時、本棚から出しては開く一冊。

よし、今日もまたがんばろう。

 

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