not too late

音楽と本と映画と日々⑅︎◡̈︎*

夢に迷って、タクシーを呼んだ(燃え殻)

家から5分ほど歩いたところに本屋がある。

読みたい本はネットで買わず、其処に注文している。

田舎なので、発売日から十日ほど遅れて届く。

あーやっと来た…なんて歩いて受け取りに行く、そのひと時がとても嬉しい。

 

『夢に迷って、タクシーを呼んだ』は、以前感想を書いた『すべて忘れてしまうから』の完結編。

本屋の奥さんが

「もうこの本自体が芸術品みたいで、ずっと持っておきたくなりますね」

と、楽しそうに手渡してくれた。

 

生きていると、皆んな、いろんなことがある。

良いこともそうでないこともある。

好きなことも、苦手なことも、違和感を感じることも。

今日はなんか嫌だったな…なんだか辛かったな…なんて日も、それが生きることなんだからと気持ちに蓋をして、取り沙汰しないでやり過ごすことが多い。

 

燃え殻さんの小さな思い出を読みながら、そんな刹那がよみがえる。

思い出して喜んだり悲しんだりして良いんだよと言ってもらってるような気がする。

そして、彼の「好き」と「苦手」に共感できるものが多い。

長尾謙一郎さんの絵と滝本淳助さんの写真が行間に濃淡を付ける。

あー

人生いろいろあるけど、この本はあったかい。

そう感じてちょっと胸が熱くなる。

 

本屋の奥さんが言ったように、やっぱりこの本は芸術品だね。

 

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上機嫌な言葉366日(田辺聖子)

心配性で困る。

自分のあの言葉が相手を傷つけていないかという心配。

返事が来ない相手に何かあったんじゃないかという心配。

書かなきゃよかった、言わなきゃよかった、訊かなきゃよかった。

ま、どの心配も徒労なのだけど。

 

年上の女性が書いた本が好き。

田辺聖子、森瑤子、山田詠美沢村貞子岡本敏子向田邦子、渡辺和子、群ようこ…。

 

家族から「最近イライラしてるね」と言われ、自覚が無かったのでちょっとゆっくりしようと思った。

休日に、自分が楽しいことを探しに出かけたら、本屋と整体と子どもの頃暮らした町のお散歩になった。

本屋で田辺聖子さんの『上機嫌な言葉366日』を買って帰る。

 

「おもろいオナゴはんはこの世のタカラじゃ」

 

私はこのごろ、幸福になる能力のあるなしは、ひとえにかかって
「棚上げできる能力」
にあるのではないか、と発見した。

 

人生はだましだまし保ってゆくもの。ゴチャゴチャしてるうちに、持ち時間、終わるわよ

 

先に生きた人の言葉はおもしろい。

ちょっと笑ったり切なかったり、自分を省みて痛かったり。

勝手な想像と心配で凝り固まったアタマを緩めて、全部消しゴムでゴシゴシ。

 

あー、軽くなった。

 

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桑田佳祐「静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~」

コロナ禍で、アーティストのLIVE自粛や延長が続いている。

そんな中、無観客のブルーノート東京で開催された桑田佳祐ソロライブ配信を観た。

ライブが始まる前に、ファンがSNSで一曲めの予想をしていた。

そうなのよね。一曲めって、私にとっても本当に興味があるし楽しみ。

娘と二人で、あれじゃない?これかもよ。それは無いよね〜なんて話していた。

 

そして、なんと。やられてしまった。

 

前回の年越し無観客ライブは、お祭り騒ぎにちょっと疲れてしまう。鬱々とした世の中で、夫々が抱える日々の不安や辛抱を吹き飛ばしてあげようと無理をして頑張っているように見えてしまう。

それは、私の偏見だろうけど、余計に淋しさが増してしまった。

 

そろそろ、しっとりとした、染み入るようなライブも良いんじゃないかしらと感じていた矢先だったので、今回のブルーノートライブは大満足をいただいた。

 

カバー曲も良かったし、オリジナルも選曲がありきたりではなかった。

メンバーもさることながら、静かに、楽しそうに、寄り添い抱きしめるようなステージだった。

娘は知らない曲が多くて、いつものライブの方が好きだと言ってたから、それぞれの好みだね。

 

ブルーノートは皆の憧れ。

古くからのジャズを知り尽くした人は桑田佳祐を受け入れられるのかわからないけど、昔からのファンにとっては、どんどん凄い人になっていく。

ほんとはこんなにオトコマエなのね。

なんて、拍手したい気持ち。

 

 

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ダーリンは75歳(西原理恵子)

西原理恵子さんご本人が「下品」と公言するこのシリーズは、「ダーリンは70歳」から6冊目。

あの高須クリニックの院長と、漫画家西原理恵子さんのバカップルぶりが描かれている。

 

確かに表現は「下品」かもしれない。

でも、私の思う「下品」とは違う。

本当の「下品」というのは、人を見下したり蔑んだりする言動じゃないかな。

 

読みながら笑いながら、人生の終盤にたくさん幸せで良かったねと声をかけたくなる。

いろんな辛抱もしてきたし、何度も泣いてきたし、屈辱も諦めも経験しながら自分の力で得た幸せに誰が文句など言えるだろう。

 

そして、西原理恵子さんの描く作品には、なんだかわからない恥じらいとか思いやりを感じる。

 

コロナ禍と年度末で、日々難しいことばかり考える昨今。

こんな時は読み物も考えないものが良い。

わははははと笑ってジンとして、あー楽しかったと本を閉じる。

そんなひと時を、ありがとうございました。

 

 

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wonder(R・Jパラシオ著 中井はるの翻訳)

自分では選ばない本がある。

私のそれは、戦闘、災害、病気…などに関する本。

嫌いとか好きよりも、悲しすぎて最後まで読めないことが多い。しかも、考えすぎて当分抜け出せなくなったりする。

『wonder』も、たぶん、そのジャンルだと思っていた。

 

近所に住む小学生男子と、時々会う。

顔を見ると、学校のことや家のことや最近の出来事などを楽しそうに話してくれる。

先日、突然、この本を鞄から取り出して、学校の図書館で借りて読んだら面白かったからぜひ読んで!と見せてくれた。

 

表紙と帯と厚みを確かめて、あー私に読めるかしらと不安になった。

「ありがとう、でも、分厚くて読めないかも」

申し訳ないけれど断ってしまうと

「読んでほしいの、お願いだから読んでみて」

と私の手に置いたまま帰ってしまった。

 

それが、読み始めるとおもしろかった。

顔だけに遺伝性の病気を持っている男の子オーガストの話。

でも、単なるハッピーエンドなストーリーではなく、オーガストのお姉さんや友達の一人称で構成されそれぞれの心の中も書かれている。

良い人だって、優しい人だって、意地悪な人だって、心の中はそれだけじゃない。100%な人間はどこにもいない。

そんな複雑な感情が、それぞれの心の中で前進と後退を繰り返し、揺れながら立ち向かいながら確立されていく。

その度に先生が提示する格言も、また興味深い。

 

本を貸しくれた男の子も、一つだけ気になる事象を持っている。私はまったく気にならないけれど、当事者の心の中はわからない。

 

お茶を飲む時間も、暖房をつけるタイミングも、難しい仕事を考える期限も忘れるほど夢中で読んだ。


自分では決して選ばなかったこの本を貸してくれた11歳の彼に感謝したい。

幾つになっても新しい発見があるとおしえてくれて、ありがとう。

 

 

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あたらしい東京。

この季節は、家に篭って仕事をする時間が増える。

それは例年のことだけど、今年はコロナ禍で余計に出かけない。

家族が居ない時はリビングで、家族が在宅のときは二階の部屋で、一人黙々と…いやモヤモヤと…机に向かっている。

 

よし、ここで休憩。

ハーブティーを淹れて、大好きなクッキーを出して、クロワッサン2019年4月バックナンバーの『あたらしい東京。』を開く。

 

旅行に出かけるなら東京。

京都、金沢、山口、伊勢…好きな処は数々あるけれど、一年に一度しか行けない一泊の旅。

そう思うとやっぱり、毎年東京に向かってしまう。

友人と二人で新幹線に乗り、東京駅に着くと

「じゃあね」

と別れる。

それから夜まで、お互い気の向くまま散策。

彼女は美術館やオブジェやデパート、私は美術館、雑貨屋、洋服屋、本屋、下町の老舗や商店街を歩き回り、友人にも会ったりして夜遅くホテルに向かう。

部屋に入ると、たいてい友人が先にチェックインしてビール片手に寛ぎながら

「早かったね」

なんて言ってくれる。

 

そんな恒例の旅も昨年は自粛。

『あたらしい東京』を見ながら行った気分になってみる。

あの川の景色もこの街の雑踏も、あのビルの空も、あの人の笑顔も思い出しながら、次はこの店にもギャラリーにも行ってみようと考える。

 

そしてこの未曾有の渦中に、その店が、施設が、あの人が、健在でありますようにとただ祈るばかり。

 

 

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相談の森(燃え殻)

誰でも、一度は悩み事を人に相談したことがあると思う。

そしてきっと、一度は人から相談されたこともあるはず。

 

私は相談されるのがとても苦手。

話を聞いたら、まずアタマが真っ白になる。

何を言ってあげれば良いのか思いつかない。

相談された自分の方が、モヤモヤといつまでも考えてしまう。

 

燃え殻さんの『相談の森』は、文春オンラインの人気連載「燃え殻さんに聞いてみた。」を書籍化したもの。

燃え殻さんて、数々の相談にどんな対応をしているのかとても興味が湧いて注文してみた。

 

その返答は、ありきたりでなく、かと言って奇をてらうものでもない。

寄り添い過ぎず突き放さず、きっと、たくさん考え何度も書き直して、相談相手の気持ちが一番楽になれる言葉を探したのだろう。

 

受け応え一つひとつを読むたび、あたたかくて泣けそうになるのは、たぶん、読んでいる自分の中に潜在している我慢や不安や自責に触れてしまうからかもしれない。


もし、今後また誰かから相談されたら、こんな風に応えられなくても、少し言葉を見つけられそうな気がする。

 

それよりも、私が燃え殻さんに相談したくなってくる。

小さな喫茶店で、コーヒーカップを持ちながら穏やかな時間を共有できそうな…

そんな一冊。

 

 

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